ソプラノ/アウトリーチ専門演奏家/声楽講師の永井友梨佳です♩
ネオクラシカルな日本のうたの曲解説シリーズ。
今回は、武満徹 作詞・作曲の「翼」です。
作詞・作曲の武満徹さんって?
武満 徹(たけみつ とおる、1930年 – 1996年)
ほとんど独学で音楽を学んだが、若手芸術家集団「実験工房」に所属し、映画やテレビなどで幅広く前衛的な音楽活動を展開。和楽器を取り入れた『ノヴェンバー・ステップス』によって、日本を代表する現代音楽家となった。
「世界のタケミツ」とも呼ばれるほど、世界的に評価された作曲家さんです。
武満徹さんは歌曲や合唱曲もたくさん手掛けておられます。
「翼」の歌詞
では、歌詞をみてみましょう。
翼
風よ 雲よ 陽光よ
夢をはこぶ翼
遥かなる空に描く
「希望」という字を
ひとは夢み 旅して
いつか空を飛ぶ
風よ 雲よ 陽光よ
夢をはこぶ翼
遥かなる空に描く
「自由」という字を
詩・武満徹
さらりと読むと、おだやかで希望にあふれる詩ですよね。
鳥が自由に飛んでいるようなイメージも浮かびました。
でも、この曲が作られた背景を知ると、
また全然ちがう角度から詩を感じることができます。
とある舞台の劇中歌として
この曲は、1982年に東京の西武劇場(現・PARCO劇場)にて上演された
舞台「ウイングス(Wings)」の劇中歌として作られました。
劇中では女優の市原悦子さんによって歌われたそうです。
(家政婦は見た!でおなじみの女優さんですよね)
この舞台のストーリーは、
脳卒中に倒れ、失語症となった元アクロバット飛行士の女性患者の闘病を描いたもの。
原作者のアーサー・コピットは、自身の父親が脳卒中になったことから、
脳卒中と言語障害についての戯曲である、この「ウィングス」を書きました。
アクロバット飛行とは:、航空機によって普段は行わない特別な飛び方をすること。有名なのは、自衛隊のブルーインパルスですよね。
この曲のタイトル「翼」は、劇のタイトル「ウィングス」からきていたんですね。
この曲が、劇中のどの場面で歌われていたのかはわからないのですが、
おそらく、主人公の元アクロバット飛行士の女性がうたったものだと思われます。
そう考えると、この詩の味わいも深くなってきますよね。
夢をはこぶ翼
というのは、飛行機の翼だったんだとわかるし、
遥かなる空に描く
「希望」という字を
ここの部分は、心の中で希望を空に描くと捉えてもいいけど、
アクロバット飛行で、実際に「空に描く」ということも想像できます。
また、この女性は、かつては自由に空を飛ぶことができましたが、
脳卒中によってそれが叶わなくなっています。
その心情を想像しながら詩を読むと、ただただ希望に満ちた穏やかな内容ではなくて
空への強い想いや、「希望」「自由」といった言葉の重みも、より感じられます。
この舞台「ウィングス」、調べたんですけどネットではこれ以上の詳しい内容がわからなかったんですよね…
あらすじを知っただけでも、詩をかなり深堀りできましたが、詳しいストーリーと、実際にどの場面で歌われたのかがすごく気になります。
ジャンルを越えてゆけ
詩だけではなく、曲もすごく素敵です。
ゆったりとスウィングしていて、でもどこか日本人にとって親しみも感じるような。
ジャズの影響も受けた武満さんならではの、ハーモニーも絶妙です。
この曲は、劇中歌としてかかれた後、かなり幅広いジャンルで演奏されています。
ポップス、合唱曲、独唱曲などなど、
(ポップスバージョンは、1997年にTBS「ニュース23」のエンディングテーマとしても流れていたみたい。)
それぞれ表情がちがって、どのジャンルでも楽しむことができる曲です。
曲がジャンルを越えていくのは、武満さんならではの魅力ですよね。
武満さんの曲集に、こんなインタビューが載っていました↓
1995年に、自作の歌をポップス編曲者の手に委ねたCDを出したとき、ブックレットで(武満徹は)次のように述べている。
「きっと多くの方が、なぜクラシックの、しかもこむずかしい現代音楽を書いている作曲家がこんなアルバムをつくったりするのか、不思議に思われただろう。
《翼》といううたにも書いたように、私にとってのこうした営為は、『自由』への査証を得るためのもので、精神を固く閉ざされたものにせず、いつも柔軟で開かれたものにしておきたいという希いに他ならない。」
(ショット・ミュージック 武満徹:SONGS p.129より引用)
今でも、クラシックとポップス、その他のジャンルもですが、
それぞれの音楽ジャンルには、お互いに先入観や溝みたいなものがあると思います。
武満さんは、当時からそういった溝をとっぱらって、
自由に、柔軟に音楽を作られていたんですね。
舞台「ウイングス」の主人公と、武満さん自身の『自由』への想いが重なっていたんだなあ。
「自由」について考える
この曲が作られた背景や舞台のストーリー、武満さんの想いを知って
改めてこの曲を聴いて私が感じたのは、
人間は、たとえ脳卒中や病気になって、体がいうことをきかなくなったとしても
精神はどこまでも自由だし、この曲のように「空を飛ぶ」ことも叶うんじゃないかな、
とか、そういうことも思いました。
多様性が大切なことだと認知されはじめた今、
人やものごとを「枠」にはめて考えるのは、あまり楽しいことじゃないなあと感じています。
人種や性別、年齢はもちろん、
体や心のこと、病気や、その人の生き方。音楽ジャンルや、自分のすきなこと。
固定概念や先入観、決めつけ、そういったものはどんどん超えていきたいですよね。
おわりに
この曲から考えを巡らせていたら、気づいたらとても壮大なことを書いていました(笑)
短く、シンプルな曲ですが、素晴らしい曲はやっぱり深掘りのしがいがあります。
あたたかく、おおらかな気持ちで歌いたい曲ですね。
これからも大切に歌っていこうと思います♩
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